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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)1952号 判決 1952年1月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意について。

しかし、原判決が証拠に基き適法に確定したところによれば、被告人の本件侵入行為は団体交渉のためではなく、被告人の属する電気産業労働組合でない他の組合である判示三井化学工業株式会社三池染料工業所の労働組合の争議に対する激励のためのデモ敢行のためであり、また、本件工場内にはいわゆる賠償工場に指定されているものも点在し前日における再三に亘るデモ隊の行進状況から見て使用者側が右賠償工場等にいかなる危険の及ぶかも測られぬことを危惧して正門を閉ざすことも已むを得ないところであって、使用者側が正門を閉してデモ隊の入門を拒否し得る特別の事情があったのでこれを拒否したところ、被告人等デモ隊員の或る者は工業所人事課調査係員藤田須弥雄の左頬をなぐりその奥歯が折れるような暴行を加え、そのことから双方乱闘に入り斯くて被告人等は同工業所の正門(鉄さく高さ五尺位)を乗越えて同所構内に侵入したというのである。されば、被告人の本件侵入行為が団体交渉権の委任の範囲内の行動である旨の論旨並びに会社側の入門拒否は単に言いがかりで基本的人権の無視である旨及び暴行を加えたのは会社側であり、吾々はそれを避ける対抗をしたに過ぎない旨の主張は、いずれも原判示に副わない独自の見解であって是認できないし、また、被告人が他の組合の争議激励のためデモを敢行する権利があるとしても、判示のごとく正当に入所を拒否される特別の事情があったにかゝわらず判示のごとく正門を乗越えて構内に侵入するがごときはその権利の範囲を逸脱し違法であること多言を要しない。それ故、所論はすべて刑訴四〇五条に定める上告理由として採ることができない。

よって、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

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